患者が主役の診療とは ~ 多発性硬化症(MS)患者、専門医からのメッセージ

「多発性硬化症(MS)だからといって、やりたいことをあきらめなくていい」と語る石原さん。ライブや恋愛、結婚、妊活……、自分らしい人生を選択されてきたというお話から、患者さんが不安や悩みを主治医に相談することの大切さが伝わります。
本インタビューでは、MS患者さんがどのようにご自身のライフプランを充実させていくか、そのサポートはどのようにあるべきか、ということについて専門医のお話を、MSの診断に至るまでの経緯や診断後の生活について患者さんのお話を、それぞれの視点から伺いました。

取材年月日 2026年3月
ページ更新日 2026年10月

お話を伺った方

石原さん:2015年に多発性硬化症(MS)と診断。
千原 典夫 先生:神戸大学大学院医学研究科 脳神経内科学分野 教授。

多発性硬化症(MS)
専門医インタビュー
「近所のお兄ちゃん」でいいー患者が主役の診療とはー 多発性硬化症(MS)専門医からのメッセージ

 

主治医の千原先生を「近所に住んでるお兄ちゃんみたいな感じ」と話す多発性硬化症(MS)患者石原さん。患者さんの「応援団の一員」でありたいと語る千原先生に、「患者さんが主役」の診療について伺いました。

― 石原さんと千原先生の関係性は?

石原さんが「近所のお兄ちゃん」と言ってくれましたが、私としては良いと思っています。ありがとうございます。私は応援団の一員だとも思ってまして。いいアドバイスができたり、場合によってはサポートできる、応援団の1人ですね。

医師と患者の信頼関係が、治療継続のためにも大切

― MSの治療に、患者さんと医師との信頼関係は必要ですか?

今、いろんな選択肢が出てきたMSの診療ですけども、その人その人で合う薬が違うんですね。そこに辿り着くのに、必ずしも1回で決まるわけじゃないと。

一番怖いのは、信頼関係がない場合に、うまくいかなかったということで諦めてしまうことです。何かしら治療をしておくことが大事なので、そういう意味で脳神経内科に通っていただいて治療、診療を継続しておくことが一番大事です。その根幹にあるのが、信頼関係なんだと思います。
「信頼はできるんだけども、家族ではない外部の人」。先ほど近所のお兄ちゃんと言って頂きまして、それは一番いいんじゃないかなと思ったんですけど、それぐらいの距離感がちょうど良いかなと思います。

― 初診で大切にされていることは?

診断がついて、あるいは初診を終えて診断がついた場合、「神経難病です」とお伝えすることになるんですね。難病の特定疾患としての申請をしないといけない、申請をして治療をしていくと。そこの部分の伝え方ですよね。

いきなり難病だって言われたときに、患者さん当然若い方が多いですから「その後の私の人生、僕の人生どうなるの?」って思っちゃうと思うんですね。不安な気持ちがどうしても出てくると思うんですけど、その不安を受け止める。患者さんの方を向いてお話を聞くという姿勢が大事だと思っていまして。

初診の外来に関しては時間を取って、診察時間が多少後ろに延びてもいいように、あらかじめ設定しておいてお話をするようにしています。

「MS患者さんが人生で大事にしたいこと」を話せるような外来に

― 患者さんと向き合うとき、意識していることは?

MSは若い患者さんが多くて平均の発症年齢が20代後半〜30代前半※1、そこからのライフプランは本当に人それぞれだと思うんですね。おのずと20代での大事なこと、30代での大事なことというのが変わってきますから、ライフスタイルや価値観、変化も含めて重視しています。

「その人にとって何が一番大事なのか」を考えます。患者さんがご病気をもって人生を渡っていくので、医者が何かをしたいわけじゃないですよね。患者さんが何をしたいか、っていうことだと思いますので、お節介すぎないようにしています。あくまでもサポーターです。

※1 多発性硬化症とは https://www.ms-supportnavi.com/about/causes.html

― 患者さんが相談しやすいように意識していることは?

石原さんから、「二次性進行型※2ですか?」と聞かれたことがありました。
確かに症状が進んで、例えば杖が必要になってます、というようなことがありますので、そこの部分はそのままお伝えしました。

今の状態を維持しようっていうのは多分同じ気持ちでいると思うんですけども、「これは進行型です」というのでその話が終わってたら「私はもうダメだ」となっていたかもしれないですしね。そこを意見交換ができた部分というのは結構大きかったかなと思います。

患者さんが話したくないような内容もきっとあると思うんですけども、私の方で「これはどうですかあれはどうですか」と聞いてというのが、なかなか、特に女性の患者さんが多いので難しい場合もあります。

患者さんがお話していただけるのを待つということなのかなと。それを話せるような外来にしておく、外来に来て、自分のことを話して帰る、みたいな空間にしておくことが一番大事なんじゃないかなと思います。

※2 多発性硬化症の症状 https://www.ms-supportnavi.com/about/symptoms.html

患者さん自身が作り出してきたものに大切に向き合う

― 「患者さんが主役」の診療とは?

「患者さんが主役」というのは、患者さん自身がどのようにご自身のライフプランを充実させていくかっていった時に、僕らは周りで手伝う、お手伝いするのを連携してやるんだ、っていう絵が描けると思うんですね。患者さんが真ん中で、その周りをいろんな人が取り囲んでいるっていうスタイル。

石原さんは職場でもご自身のご病気のことを伝えられてますし、周りの理解もあるし、ご家族にもサポートしてもらっていて、ご病気をお持ちではあるんですけれども、幸せに過ごされているなという印象を持っていまして。それって患者さん自身が作り出してきたものだと思うんですよね。

患者さんが諦めずに前を向いて、っていうスタンスにみんな賛同して、その人を周りが見てる、ということの良い例になるのかなと思います。

MS患者さんインタビュー
「あきらめない選択 ー病気になってからの方が、人生楽しんでますー」

 

多発性硬化症(MS)の診断を受けた石原さんに、診断がつくまで、主治医である千原先生との出会い、診断後の生活についてお話を伺いました。

身体の異変への気づき、MS診断までの経緯

― 最初に身体の異変に気づいたのはいつですか?

21歳の時です。右手がしびれて、「何やろな」と思いながら様子をみていました。最初は右手だったのが、だんだん範囲が広がっていって、最終的には右半身全部、頭からつま先までしびれてきたので病院に行きました。そこでMRIと筋電図を撮ってもらったところ「ストレスによる心身症だと思います」と診断を受けて。

ストレスやったら別に自分自身に問題はないし、生活できてるししびれだけやったらいいかって思って、そのまま病院に行かず経過していましたね、10年。

― MSを診断されたのはどのようなきっかけですか?

25、6歳くらいの時に排尿障害が起きて、ひどい時は5分に1回とか、「さっき行ったのに、またすぐトイレに行きたい」とかいうのがずっと続いて。泌尿器科に行くのは恥ずかしいという抵抗があったので、しばらく我慢していました。

2015年の2月に、次は舌がしびれたんですね。ご飯ものみ込みにくく、むせそうになった時に、「これはちょっと危ないかもしれない」と思って、もう一回病院に行った時に「多発性硬化症」と分かりました。

― 診断を受けてどう感じましたか?

診断してくれた先生に、「今までよく頑張ったね」「これからは病気は治療できるから、もう一人で抱え込まなくていいよ」って言っていただいて、「あーやった!」ってなりました(笑)。

原因があったんだっていう、すっきりした気持ちでしたね。何やろ、何やろ……って言って、自分の身体は一体どうなっていくんやろ……っていう不安が、「何や自分じゃなくて、病気のせいなんや!」ってなったので、もうすごくすっきりしました。

相談したら、先生が「やりましょう!」って応援してくれた

― 千原典夫先生との出会いについてお聞かせください。

最初の印象は、この先生か……みたいな(笑)。なんか千原先生、すごい幼い顔されてたから。今までの先生は、デスクに向かったまんまの人が多くて、完全に向き合ってしゃべってくれるイメージがなかったのですが、千原先生は、「先生、実は……」みたいな感じで話しやすかったりしますね。

― 先生との信頼関係が深まったきっかけは?

大好きなアーティストのライブに行く時に、周りからは「MSの方は感染症リスクが高いので、大勢の場は行かない方がいい」とかいろいろ言われていたので、先生にもあかんて言われるかな、と思って相談したら、千原先生は「行ってきてください、楽しんで来てください」って。

いつも「あれしたいんです」「なんか他にも始めようと思うんです」って言ったら、「やりましょう!」って応援してくれるのがすごくうれしくて、しゃべりやすいなってなりました。否定はされたことないですね。

人よりリスクはあるけど、やりたいことをあきらめる必要はない

― 印象に残っている千原先生の言葉は何ですか?

「MSだからと言って日常生活を我慢しなくていい」ですかね。危ないなと思った時も、ここを気をつけていれば大丈夫ですよ、リスクだけ理解して気をつけていたら大丈夫ですよって、背中を押してもらえる唯一の存在でした。

― 石原さんにとって千原先生はどんな存在ですか?

恐縮なんですけど、友達とか近―所のお兄ちゃんのような感じでいつも診察を受けています(笑)。

― 恋愛についても相談された?

夫と出会った時がコロナ禍で、濃厚接触とかが一番きつい時期だったんで、先生に、MSの方って恋愛どうしたらいいんですか?って相談しました(笑)。

MSだからといって恋愛してはいけないなんてことはない、感染リスクについては私だけ気をつけていても駄目だから、お相手の方にはちゃんと話をして説明して、理解してもらって、という話をしていただきましたね。

― ご主人の存在は支えになりましたか?

夫と知り合った時から私は排尿障害があってトイレが近かったのですが、「ごめん、トイレに行きたい」って言ったら、車に乗っていても「いいよいいよ、あそこにトイレがあるから」とか「大丈夫、気にしなくていいよ」と言ってくれたのは私にとってすごく励みになっていました。

― 千原先生の診療を受けることで「自身が変わった」と感じることは?

できない事が増えてきて、諦め癖がついてたんですけど、千原先生と出会えて「人よりリスクはあるけれど、あきらめる必要はない」「リスクをちゃんと自分で理解していたら、やってもいい」っていう考え方になれたんで。

家族が危ないとか止めようとしてきても、「でも千原先生良いって言ったもん」って(笑)、やりたいことをやるようにはなりました。

結婚当初はもう、子どもがいない選択で2人で結婚したんですけども、1年後に結婚式をあげて、そうすると2人の中でまた気持ちが変わってきて、今度は子どもが欲しいなと。
千原先生に「今さらなんですけど子ども頑張ろうかなって思うんです」って伝えたら、その時も先生が「いいですね!頑張りましょう」「今の薬は、子どもがちょっと禁忌だから薬変えようか」って。

身体(症状)は進行していくんですけど、気持ちはどんどん前向きに進んでいってます。

あきらめていること、不安なこと、できるだけ医師に話してみてほしい

― 千原先生と話をして良かったと思うことは?

先生が「患者さんごとに症状が違う病気なので、僕たちより患者さん自身の方が病気のプロなので」「あっ、そういう症状もあるんですね」って、先生自身が気付くこともあるようなことをたまにおっしゃっていると、あぁ話してよかったなって思うときはありますね。

― 同じような悩みを持つMSの方へ、伝えたいことはありますか

不安に思ったことは、主治医が一番話しやすいし、理解してくれてると思うので、分からないことは絶対に聞いた方がいいと思います。
今は多分、最初に行った病院で多発性硬化症って診断されることが多いと思うんですけど、もし「疑いはあるけどちょっとはっきりできないな」と言われた場合は、別の病院にも積極的に行ってほしいなとは思いますね。

本当に早期治療が予後を左右する病気なので、悩んでいる方には早く治療を開始してほしいとは思います。

― 今後の目標は?

私も、ちょっと身体が思うように動かないことは増えてきたんですけど、それでも「やりたいと思ったことはやろう、今、自分ができる精一杯のことはやってみよう」って。今でいったら妊活ですね(笑)。私は病気になってからの方が、人生を楽しんでますね。