World MS Day 2024

コンテストの応募受付は締め切りました。
応募数は98句となりました。
たくさんのご応募ありがとうございました。
見事入選されました作品を発表いたします。

審査員コメント

昨年に続き、二度目の審査を担当させていただきました。症状や徴候のこと、日頃の苦労の数々、再発の恐怖や、それを和らげる治療について。知識として知った内容が、生きた言葉と俳句の形で、自分の内に吸収されていくのは僕にとっても嬉しいことです。
実は、もうひとつ嬉しい出来事がありました。去る6月9日土曜日、僕は兵庫県明石市にて母・夏井いつきと共に夏井いつきの句会ライブIN明石の壇上にいました。終演後、一人のご婦人が声をかけてくださいました。なんとその方はMS当事者であり、本コンテストの受賞者でもありました。多発性硬化症と歩む人生、その杖として俳句を手に入れ、目の前で笑顔を見せて下さる方がいらっしゃる事実に震えました。MSと付き合う人の心は時に、驚くほど前向きに他者を惹きつけます。
俳句があなた自身の魅力を伝えるための手段のひとつになってくれたら、と、希望と共に祈っております。

(審査員)俳人 家藤正人

1986年生まれ。愛媛県出身。大学卒業後、本格的に俳句に携わる。夏井いつきの句会ライブにてアシスタント経験をつむ。愛媛新聞カルチャー教室、学生を中心として県内外で単独句会ライブも行っている。2016年からは南海放送ラジオ「夏井いつきの一句一遊」にてアシスタントを務め、2019年より南海放送ラジオ「家藤正人の『一句一遊』虎の巻」ではパーソナリティを務める。そのほか、松山市公式俳句投稿サイト「俳句ポスト365」初心者欄選者。香川県宇多津町「令和相聞歌」企画参加および選者ほかさまざまな企画に携わる。句集『磁針』(夏井&カンパニー)

私の多発性硬化症俳句コンテスト 受賞作品発表

ご本人による作品

特選

着膨れの街はきらめくイヤーカフ

松野加奈子

作品の背景及び受賞者コメント

特選のご連絡を頂きありがとうございます、とても嬉しいです。
ウートフ徴候があり暑い夏は苦手です。寒い季節が好きなのでダウンコートを着て街に行き綺麗なイルミネーションを詠んだ句です。
手指が痺れピアスは無理なのでイヤーカフを付けたりします。ペンダントの金具を付けるのも難しいのでロングネックレスやアクセサリーを付けたりします。
出来る事をしながら、いつまでもお洒落を楽しみたいです。

家藤先生の講評

「着膨れ」は冬の季語。道行く人みな、冬物に着膨れています。周囲の街のきらめきは寒夜の灯でしょうか。きらびやかなクリスマスモードでしょうか。そのきらめきを形作る一人として、作者の耳にはイヤーカフが光っています。震えやこわばり、おぼつかない手先でも身につけやすいアクセで自身を彩る姿が、女性としての明るい矜持を感じさせます。

叱咤して動かす四肢よ子規忌の日

俳号:はなゑ

作品の背景及び受賞者コメント

この度は「私の多発性硬化症俳句コンテスト」の特選のお知らせを頂きましてありがとうございます。とてもうれしいです。
以前、毎日出社していた時、帰宅の時には疲れてふらふらになって歩いていました。最寄りの駅から自宅までは10分ほどの距離ですが、「がんばれ!あともう少し!家がもう見えてるよ!」など自分で自分を励ましながら足を動かしていたことを思い出してこの句を作りました。正岡子規について書かれた本を読んでいましたら、子規は歩けなくなった晩年にも人力車で外出していた、というのを読み、子規の忌日の季語を取り合わせたいと思いました。
第一回目の俳句コンテストでも特選をいただき、俳句を始めました。昨年は秀逸をいただき、それから夏井先生のおウチde俳句くらぶに毎月応募しています。俳句が新たな趣味のひとつとなり、俳句のタネを探して毎日を過ごすのが楽しいです。この企画で俳句という新たな楽しみを知れたことにとても感謝しています。ありがとうございます。

家藤先生の講評

近代俳句の基礎を築いた偉人・正岡子規の命日である九月十九日を「子規忌」と呼びます。子規の死因は脊椎カリエスという結核菌が要因となる治療の難しい病。晩年は身体を動かすことはほぼ不可能でした。その子規の姿と、作者の「四肢よ」と自らの手足に励まし呼びかける姿とが重なります。残暑厳しい九月の「日」を生きる作者自身の姿がここにあります。

秀逸

花見来て同時に芽吹くレルミット

俳号:まう

作品の背景及び受賞者コメント

このたびは秀逸に選んで頂き大変嬉しく思います。ありがとうございます。MSになってもうすぐ4年になります。
今年の4月に花見に行った際、その日の気温が前日と比べて高かったためか、頚椎にある病変の影響で起きるレルミット徴候が久しぶりに強く症状が出た事を表現しました。
私の場合寒い時期は落ち着いていますが、このように夏に向かって気温が暖かくなってくると首を動かした際に首から足元にかけて一瞬ビリビリと症状が出るので、まさに花の芽吹きの頃に出現するなと思いました。

家藤先生の講評

桜も盛りを迎える晩春、気温は日に日に高くなっていきます。お花見に行こうと陽射しのなかを歩けば汗ばむほどの陽気です。賑わう桜が見えてくる頃、痛みやしびれとなって表れるレルミット徴候。桜の薄桃色を癒しと読むか、酷薄な色と読むか。作者の心理を慮ります。

「春の海」弾けてた琴の鮮やかさ

俳号:凌花

作品の背景及び受賞者コメント

この度、「秀逸」という賞をいただいて大変嬉しく思っています。有難うございます。
また、この企画をしていただいたバイオジェン・ジャパン株式会社様、関係者の皆様、選考してくださった家藤先生に心から感謝しております。
この作品の背景は、小学校の友達の叔母さんがお琴の先生だったことから、母がお琴が好きだったので、引っ込み思案だった私に習わせてくれました。
その頃の私はMSではなかったので、上達が早く小学6年生で宮城道雄作曲の「春の海」が弾けたのです。嬉しかったです。今回はあの大好きな美しい旋律の「春の海」と、季語の「春の海」をかけてみました。
古びたお琴のことをお店に相談したら、持ち帰って見違えるような美しいお琴になって戻ってきました。今は鮮やかな着物のような衣を纏って2階で眠っています。
私は手や指に力が無くて今は弾けないけれど、美しく生まれ変わったお琴を見て心が浮き立つように嬉しくなりました。
今回はこのような作品を発表する機会を与えてくださり、感謝に堪えません。また過大なる評価をいただいて本当に有難うございました。

家藤先生の講評

掲句の「春の海」は宮城道雄作曲の箏曲であり、海そのものを指す季語「春の海」とは異なります。なのに、心にひっかかる。手指が記憶する弦の弾ける感覚、弾けなくとも美しく手入れされた琴。大切なものへの愛着が、春の海のように作者の心に煌めいているからです。

蛞蝓をよけているのにクラクション

俳号:ポリエステル85%

作品の背景及び受賞者コメント

本コンテストに初めて応募してこのような賞をいただき、とてもうれしく思います。
MSは外観からなかなかわかってもらえない病気なので、小さな生き物へのせっかくの気持ちをクラクションにかき消された無念さを詠みました。時々車椅子を使うことがあるのですが、その際はヘルプマークを付けている方も含めて多くの方が助けてくださるのに、と思うと残念な気になります。私自身も診断されるまで時間がかかり、その間に進行してしまった経験から、目や足の違和感から受診した方が、早くMSの診断につながることを願っています。

家藤先生の講評

MS当事者ならではの視点が新鮮です。雨の多い頃、多く見かける蛞蝓。うっかり踏むと杖が滑って転んでしまうんだそうです。命の危険に繋がりかねません。そっとよけたら、途端に鳴らされるクラクション。憤懣やるかたない心と「蛞蝓」が不快にも似合う皮肉。

ご家族ご友人・医療関係者による作品

特選

訪リハのパタカラ軽し蝌蚪育つ

俳号:丹波らる[医療関係者]

作品の背景及び受賞者コメント

この度は特選に選んで頂きまして誠にありがとうございます。訪問リハビリテーションに従事する者として毎年患者様のことを思い第1回目から投句させていただいています。
作品は訪問リハビリテーション中に、利用者様と口腔練習をした際に作成したものです。「パタカラ」とは「パ」と「タ」と「カ」と「ラ」を連続で発語することで会話や食事に関する口周りや舌の筋肉を鍛えることを意図しています。最初はうまく発語できなかったり、息が続かないですが、毎日こつこつ練習することで聞き取りやすい発語ができるなどの喜びにつながります。その成長過程をすくすく育つおたまじゃくしの成長に託して詠ませていただきました。
リハビリテーションを通じてすべてがうまくいくとは限りませんが、ひとつでも患者様の希望になればと思い、今後もよりよいリハビリテーションメニュー作りや俳句作りに精進したいと思います。本当にありがとうございました。

家藤先生の講評

訪問リハビリで行われる発語練習。「パタカラ」の四音を繰り返し発音して口や舌の筋肉を鍛えます。「蝌蚪」とはおたまじゃくしのこと。パタカラ、パタカラ、と軽やかに唱えたり、時々詰まったり。地道なリハビリの時間をすごすうちにも、田や水辺には蝌蚪が次々と生まれ、育っていきます。まるで唇から発された音が命を得て動き出したような姿で。

ひまわりや足指で押す伝の心

俳号:藤井いちはつ[医療関係者]

作品の背景及び受賞者コメント

人生で初めて投句しました。
今まで俳句とは縁が遠かった私ですが、6月9日の明石の句会ライブに思い切って参加しようとしていた矢先、突然入選のメールが来て、驚き、たまげてしまいました。
もう10年以上前のことです。私は、薬剤師として、重度の多発性硬化症の患者さん宅に薬を届けていました。夏でも首まで布団をかぶって寝ていて、ちょうど家の人が留守だった時、足指でボタンを押して、伝の心という機械でお話ししてくれたことを、今でもよく覚えています。モニター画面に文字盤があって、それをみながら文字を選ぶのですが、一文字を打つのにも15~20秒かかるのに、頑張って入力してくれて、涙が出ました。お庭には、ひまわりが咲いていました。
これからも、俳句に挑んでいく勇気が出ました。ありがとうございます。

家藤先生の講評

季語と、一見関係ない言葉とをぶつけ詩の火花を生む技を取り合わせと呼びます。「ひまわり」と、足指で文字を打つ機械「伝の心」には直接の関係はありませんが、言葉同士が出会うと、様々なイメージが連鎖していきます。大輪のひまわりが咲く夏の盛り。開いた足指を湿らせる汗。意思が文字になっていく、訪問先での時間の重みに強いリアリティがあります。

秀逸

ぼろぼろのあいうえお表梅雨曇

俳号:夏風かをる[家族・友人]

作品の背景及び受賞者コメント

この度は秀逸に選出いただきありがとうございます。
少しずつ動けなくなって喋れなくなって母音しか発声できなくなった祖母とコミュニケーションをとるために、あいうえお表を使おうと言ったのは母でした。頭文字だけでもわかればとのことでした。コロナでなかなか会えず最後まで使うことはなかったのですが、母の車にはまだその表が残っていて、それを見ると祖母のことを思い出します。

家藤先生の講評

「ぼろぼろのあいうえお表」はリハビリに使うものでしょうか。「梅雨曇」の天が落とす頼りない光量の下、痛み具合が切なさを増します。言葉で映像を描写する力、その映像へちょっとだけ感情の機微を加えるさじ加減、どちらをとっても確かな技術の持ち主です。

秋の夕書き置きに泣くまた入院

俳号:如月[家族・友人]

作品の背景及び受賞者コメント

この度は秀逸に選んでいただきまして、誠にありがとうございます。
私が5歳になる頃、母は多発性硬化症の診断を受けました。
末っ子で甘えんぼうの私は、父や祖父母、年の離れた兄達に支えられて育ちました。
自転車に乗って母の見舞いに行ける兄達が羨ましくて仕方ありませんでした。
長期入院を終えてからも母は入退院を繰り返していました。
母が定期通院の日は、「検査結果が悪く、お母さんが家にいなかったらどうしよう」と不安になりながら早足で帰ったものでした。
母が入院したときに、様々な病と闘う子どもたちに出会ったのが、現在の職である特別支援学校教諭を目指すきっかけでした。
目の前のおばあちゃんがかつて病床に伏せていたことなど知らない5歳の我が子が母に甘える現在です。
パワフルで笑顔が絶えない母に尊敬の念を抱いています。
多発性硬化症の当事者の方、御家族、関係する皆様の御多幸をお祈りしています。

家藤先生の講評

小さな詩の器に注がれた哀しみの色の濃さに胸を打たれます。個人的にはかつての記憶だと読みました。ただでさえ寂しい秋の夕暮れ。書き置きは「また入院」と告げ、不安と孤独に取り残される子どもの心はいかばかりか。字余はぐちゃぐちゃな感情の表れでもあり。

ソーダ水カランブログは小休止

俳号:くぅ[家族・友人]

作品の背景及び受賞者コメント

この度は、受賞のご連絡ありがとうございます。大変嬉しく思っております。
拙句は友人を詠んだ句です。彼女は闘病生活をブログに綴っていました。ブログは病と闘う力になっていたようです。しかし、病状の悪化があったり、ソーダ水を味わう一時にささやかな幸せがあったりして、無理に自分を奮い立たせなくてもいいのではとブログを休む決心をしました。またいつか始めるかもしれないブログは今も小休止のままですが、穏やかな日々であれば、と思っています。

家藤先生の講評

情報発信の身近な手段である「ブログ」。闘病生活をブログに綴る人もいれば、その記事を読み励まされる人もいるでしょう。「ソーダ水」は清涼感と同時に、痺れる刺激も連想させる季語です。疲れた目と手を休ませるひとときの小休止。「カラン」の音も軽やかな一句。

佳作

チャペル前吾子の花束(ブーケ)は吾の膝に
俳号:藤村一寿[当事者]

春の風両目に届く空の青
俳号:林理[当事者]

初めての子なしお泊まりパルス旅
俳号:ぱんちゃん[当事者]

杖歩行いつもより増す春風か
俳号:はくたく[当事者]

体温の火を響かせる赤の音
俳号:らいあん[当事者]

八重桜全然見えない私の目
志賀明子[当事者]

去年今年薬シートに書く日付け
俳号:コミマル[当事者]

主治医自慢うなずく父と歩く春
俳号:一柳ナヲ[当事者]

薬壺抱き天の川見て祈る夜
俳号:勇姫[当事者]

その日だけクタクタ燕ともの会
俳号:事務局長[当事者]

難病に負けず口笛吹く五月
津田基晴[医療関係者]

見えぬ痛みほほ笑みの裏夏の陽に
俳号:炭治郎[医療関係者]

うさぴょんのまたの名夫花見酒
俳号:M.N [医療関係者]

障碍といふ名の個性花衣
俳号:樽谷幸龍[家族・友人]

愛娘見守り九年落花かな
俳号:ヘンリエッタ[家族・友人]

病名のついた嬉しさ春の雲
俳号:でんでん琴女[家族・友人]

「異常なし」夫と万緑の駐車場
俳号:阿山きし[家族・友人]

底の底より浮き上がるソーダ水
貴田雄介[家族・友人]

木の芽どきかくし包丁感謝して
水戸部優子[家族・友人]

寺町に疲れて眠る秋の蝉
俳号:近江菫花[その他]

2024年6月30日(日)
私の多発性硬化症俳句コンテスト オンラインイベント

バイオジェン・ジャパンより

バイオジェン・ジャパンは毎年5月のWorld MS Dayに、MSを一人でも多くの方に正しく理解して頂くことを目的に様々な啓発活動を行っています。
今年は、MS当事者の方や、そのご家族・ご友人、また日々MS当事者と向き合っておられる医療関係者の方を対象とした俳句コンテストを実施いたしました。
MSの症状や程度は人によって様々であり、それ故にご自身の病気や人生と向き合う姿勢や考え方、悩みもまた人それぞれです。
そんな多様な向き合い方を「俳句」という短い詩の中で表現することで、ご自身が抱く想いに改めて気づくきっかけとなり、また他の方が詠む句の背景にある想いに触れることが、新たな気づきや共感、連携につながるのではと当社は考えました。
俳句を通じてご自身の想いを表現頂くことで、お互いの理解が深まり、MSを中心とした大きな輪が生まれていくことを願っています。

【個人情報の取扱いについて】バイオジェン・ジャパン株式会社主催『想いでつながる 私の多発性硬化症俳句コンテスト』として取得した個人情報(氏名、住所、電話番号等個人を特定できる情報)を厳重に管理いたすとともに、頂いた個人情報については、選考、ご連絡、当選者の発表のために利用させていただきます。主催者の個人情報保護法方針等につきましては、当社プライバシーポリシーをご覧ください。

World MS Dayとは

World MS Day(世界多発性硬化症の日)は、MSの認知向上などを目的にMS世界連合と世界各国のMS協会により、2009年に制定されました。
日本でもMSの認知向上を目的として、趣旨に賛同した組織、団体、個人により、さまざまな啓発活動が展開されています。