福冨崇史さん |
日々の小さなよろこびや優しさに感謝しながら、MSに向き合っていくすっと伸びた背筋に帽子とステッキがトレードマークの福冨さんは、多発性硬化症の患者会やコミュニティの頼れるリーダー的存在。自らの症状や経験を元に綴った著書を出版するなど、積極的に啓発活動に取り組んでいます。
2013年に多発性硬化症を発症。2015年には自身の経験を生かし、『多発性硬化症1年生のためのMS入門書』を出版。全国多発性硬化症友の会東京支部の役員を務めながら、各地でMSの啓発活動を行う。
最初に多発性硬化症(以下、MS)と診断された時は、病名さえ知らなかったので、他人事のような気持ちでした。しかし、目が複視で見えづらくなったり、足が動かしづらくなったりと症状が進行していくうちに、この難病と本気で向き合わなければという気持ちになり、『多発性硬化症1年生のためのMS入門書』を執筆しました。この本が私と同じMS患者さんの不安や疑問を解決する一助となり、周りの方がMSを知るきっかけになればうれしいですね。
MSの引き金の一つはストレスといわれています。それを少しでも減らしてポジティブな気持ちでいるために、私の場合、帽子やステッキ、万年筆など身近な日用品に少しこだわって、使うたびにささやかなよろこびを味わっています。
また、趣味の写真撮影もいい気分転換に。最近はスマートフォンで、帰り道の夕景や路上の草花など、ふと心が動かされる美しい瞬間を切り取るのが好きですね。こうした毎日の小さなよろこびが、私のリラックスの源です。
今、あらためて思うことは、自分はひとりじゃないということ。病気になると自分のことでいっぱいいっぱいになってしまいます。それは当たり前だし、仕方のないこと。でもそんな時は、自分自身を俯瞰するように“一歩ひいてみる”と、周りにサポートしてくれる家族や仲間、気遣ってくれる人がいることに気づきます。
電車で席を譲ってくださったり、MSのことを理解してくれようとしてくださったり……。そういったさりげない優しさ一つひとつに、「ありがとう」と真心を込めて丁寧に伝えるようになりました。一見見た目には症状がわかりづらい病気ですが、これからもひとりでも多くの人にMSという病気や症状を理解してもらうために、さまざまな活動に取り組んでいきたいと思っています。