尾崎麻由さん

好きなことは決してあきらめたくない。その思いを糧に、病気とともに生きていく音大を卒業し、結婚、出産後もピアノ奏者として活躍する尾崎さん。多発性硬化症の症状に悩みながらも、お子さんの成長と大好きなピアノに向き合える時間を心の栄養にして、豊かな日々を送っています 。

Profile

2013年、息子さんが1歳の時に多発性硬化症を発症。病気と向き合いながら、ピアノ奏者として活動を続けている。

多発性硬化症(以下、MS)を発症した後もピアノ演奏の仕事を続けていましたが、2年前の再発で手が動かなくなりました。かなりショックでした。「ピアノだけは絶対に弾き続けたい」という思いから鍵盤と向き合い、リハビリをがんばりました。その甲斐あって仕事に復帰。普段の生活では手が震える症状が続いているのですが、なぜか演奏本番になると、その震えがピタッと止まるんです。主治医も驚いています。

MSは外見で判断しづらく、体調に大きな波があることも理解されにくい病気です。私は症状によって、杖歩行だったり車椅子を使用したりするのですが、「車椅子を使うほどの病気ではないのでは?」と、疑われてしまうことも。

でも、その都度病気について一からお話しするのは難しいです。一見健康そうに見えても、小さなサポートが必要な人がいることを心の片隅に留めてくれる人が増えたらうれしいですね。

まだ幼い小学1年生の息子には、「おかあさんはちょっと疲れやすくて、激しい運動はできないんだよ」と、わかりやすい症状だけを伝えています。息子は、「歩き過ぎちゃったね。おかあさん疲れてない?」と声をかけてくれたり、バスに乗る時にさりげなく小さな手を差し出してくれたり。気を遣わせちゃったなと思う反面、息子の成長がとてもうれしいです。人の痛みがわかる大人になってほしい。今は心からそう願っています。

私の夢は、障害のあるなしにかかわらず、誰もが音楽を楽しめるバリアフリーのコンサートを開くこと。ピアノと家族、大好きなものに寄り添い、心の張りを程よく保ちながら、私らしく生きていこうと思います。