MSがなぜ起こるのかはまだ十分に明らかになっていませんが、「自己免疫」が関係しているのではないかと考えられています。ヒトの身体では細菌やウイルスなどの外敵から身を守るために、白血球やリンパ球などを中心とした免疫系というしくみが働いています。ところが、何かのきっかけで、免疫系が本来は攻撃しないはずの自分自身の細胞を攻撃し障害をもたらすことがあります。これを「自己免疫疾患」といいます。
MSでは脳や脊髄のミエリンが自分自身の免疫系に攻撃された結果、脱髄が起こり神経線維の切断が生じます。以下の多数の要因が組み合わさって発病すると考えられています。
両親から引き継がれる数百個の遺伝子の組み合わせで、MSになりやすいかどうかが決まります。遺伝子の組み合わせによってたまたまMSになりやすい体質であることが、MS発症の一因となります。1つの遺伝子で決まる遺伝病とは異なり、直接遺伝することはありません。ただ、MSになりやすい体質が遺伝することはあり、日本人のMSでは100人に1人程度で家族内発症があります。
MSの発症は日照時間の短い地域で多く、妊娠中や小児期の日照の少なさによるビタミンDレベルの低さがMS発症を促進する要因となることがわかっています。
MSは衛生状態の良い地域や家庭に多い傾向があります。ウイルスなどの感染因子に曝露される年齢が高い場合に、ヘルペス属ウイルスなどの感染が引き金となって、自己免疫によるミエリンへの攻撃が始まることがMSの原因の1つではないかと考えられています。ウイルスが脳に感染するわけではなく、MSが他の人にうつることもありません。