診断

MSは現時点では血液や尿などの体液を調べて診断を確定できる病気ではないので、次のような数種類の検査の結果を総合的に判断し、疑わしい病気を除外して診断します。

問診・神経学的検査

まず医師が問診し、現在の症状と過去の「病歴」を詳しく聞きます。その後、視力、手足の運動機能、感覚、刺激に対する反射の有無、姿勢や歩行などの「神経学的検査」について、医師が確認します。

MRI(磁気共鳴画像)検査

脳や脊髄の断面写真を撮り、病巣(脱髄している部分)を写し出す検査です。無治療で放置するとMS患者では脳病巣の体積が平均で年5%程度増大するといわれています。炎症が進行しつつある病巣は、ガドリニウム造影剤を静脈注射して撮影すると、下の写真のように白く写ります。

このような新たな病巣が生じる状態、ときに再発のある状態を放っておくと、「脳萎縮」が進行する可能性が高まります。脳萎縮は、物忘れや判断力の低下などの認知機能障害の原因となります。脳萎縮を起こすと、MRI検査で脳の体積が縮小して脳室や脳表の脳脊髄液の「水たまり」が増加します。

脳脊髄液検査

MSでは脳脊髄液に異常がみられることがあります。腰椎穿刺(ようついせんし)(ルンバール)という方法で腰の部分の脊髄から脳脊髄液を採取し、脳や脊髄に炎症や免疫の異常があるかどうかを調べます。再発寛解型のMSでは、しばしばオリゴクローナルIgGバンドの出現やIgGインデックスの増加が認められます。これらはMSによる炎症や免疫反応が高まっていることを示唆しています。なお、髄液中の細胞数が顕著に増えた場合は、視神経脊髄炎(NMO)などの他の病気の可能性も考えられます。

誘発電位検査

脱髄が起こって神経細胞から延びた軸索がむき出しになると、その部分の電気活動・情報の伝達速度が遅くなります。誘発電位検査では、頭に小さな電極を付けて、種々の刺激により生じる脳波を記録し、反応の速度が変化する部位を調べることで、どこに病巣があるかがわかります。

血液検査

他の病気に特徴的な検査値の異常がないかを調べます。MSの場合は、通常、血液検査では異常がありません。

多発性硬化症(MS)の診断基準について

MSは、症状やMRI検査からわかる病変が時間的に多発すること(さまざまな時期にみられること)と、空間的に多発すること(中枢神経のあちこちにみられること)により診断されます。

国際的な診断基準

現在、広く用いられているのは「マクドナルドの診断基準(2010年版)」で、MSの病変の特徴を考慮して、MRIの基準が定められています。増悪が1回しかなくても、MRI検査と組み合わせて早期に診断ができます。

  • MSと似た症状をもつ他の疾患
    視神経脊髄炎、抗MOG抗体関連疾患、急性散在性脳脊髄炎、再発性急性散在性脳脊髄炎、悪性リンパ腫、脳血管炎、膠原病、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、神経寄生虫症、 神経梅毒、進行性多巣性白質脳症、脳血管障害、HTLV-1関連脊髄症、自己免疫脳炎(傍腫瘍神経症候群含む)、脳梗塞、ミトコンドリア脳筋症、アミロイド血管症、CADASIL、亜急性連合性脊髄変性症、白質ジストロフィー、脳腫瘍、頸椎症性脊髄症、脊髄空洞症 など

※以前は、視神経脊髄炎はMSとの区別が難しく混同されていましたが、近年、MSとは別の病気であることがわかりました。抗MOG抗体関連疾患はまだ独立した疾患かどうか議論の途上です。血液中の「抗アクアポリン4抗体」「抗MOG抗体」や脊髄MRI所見を調べれば区別が可能で治療法がまったく違うので、正確に診断することが重要です。